日々うっかり
【真うかつエピソード5874】
感想としては、もう色々と唸らされることだらけですね。クリスティの最高傑作に上げる人も多いというのも頷けます。以下軽くネタバレ含みますが寸評。
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主人公の中年女性ジョーンは自分の事を優くて地位の高い夫と3人の子宝に恵まれたパーフェクトな主婦であると自他共に認められる存在だと過信しています。それが異国でかつての学園のアイドルであったものの、今は見る影も無く落ちぶれた(と主人公は思っている)元同級生との再会をきっかけに、内に眠る様々な疑問に気づいていくというストーリー仕立てです。
ジャンルとしてはサスペンスの部類に入りますが、派手な殺人事件なんぞ起こりません。事件が起こらないのでポワロやマープルといった名探偵も登場しやしません。しかしこの作品はなかなかどうして、怖いです。
・ロンドンの駅で夫の後姿を目にしなかったら
・あのタイミングで旧友に再会しなかったら
・旧友が末娘と顔見知りでなかったら
・ワジの増水で3日も一人で孤立することが無かったら
彼女の心象には何の変化も起こらなかったでしょう。数々の偶然の積み重ねが彼女に「知らなかったほうが良かった事実」を知らしめる結果になります。しかもその事実を知らしめるのはほかならぬ彼女自身なのです。
ラストは隙を与えぬ2段構えの畳みかけ。イヤ本当にクリスティって凄いですね。
個人的にはでもそこまでジョーンって責められるべき人なんかな、とも思ったりします。あのエンディング(1)に関しては賛否両論あるでしょうが、世の殆どの人はこの事態に陥ったらこの結末を選ぶんじゃないかなーと思いますので。
いずれにせよ、お勧めですこの本。
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